7月も終わりに近づき、子どもたちの夏休みが本格的に始まりました。ナースステーションで来月の勤務表を眺めながら、「お盆、どうしよう」「学童のお迎え、この勤務じゃ間に合わない」と、静かにため息をついていませんか。
私は、子どもが小学生だった数年間の夏休みは、一年でいちばんしんどい時期でした。勤務表が出るたびに、夫のシフトと突き合わせ、実家に電話をかけ、それでも埋まらない日が2日残る。その2日をどうするか考えているうちに夜が明けて、そのまま日勤に行ったことを今でも覚えています。
夏休みがしんどいのは、あなたの段取りが悪いからではありません。構造がそもそも噛み合っていないからです。
夏休みがしんどい本当の理由は「時間」ではなく「境界線」
多くの人は「夏休みは子どもの世話に時間を取られるから大変」だと考えます。でも、現場で長く働いてきた実感として、本当の負荷はそこではありません。
学校というのは、平日の8時から15時まで、子どもの居場所と安全と食事(給食)をまとめて引き受けてくれる巨大な仕組みです。この仕組みが約40日間、まるごと消える。つまり夏休みとは「休み」ではなく、家庭に新しい業務が一つ増える期間なのです。
しかも看護師の仕事には、日勤・夜勤・遅出・早出と、生活のリズムを毎日組み替える性質があります。もともと不規則な土台の上に、40日分の新しい業務が乗る。これで平気なほうがどうかしています。
メンタルヘルスの視点から言えば、人が消耗するのは「作業量が多いとき」より「予測できないとき」です。今日は誰が家にいるのか、明日は何時に帰れるのか。この不確実さが、じわじわと判断力を削っていきます。
しんどさの正体は労働時間ではなく、「先が読めないこと」への慢性的な緊張です。
看護師ママの夏休みを苦しくする3つの原因
原因1:学童の預かり時間と勤務時間が、構造的に合わない
多くの学童保育は、夏休み中の受け入れ開始が朝8時前後、終了が18時前後です。一方、病棟の日勤は始業8時30分でも申し送りや情報収集で8時前には出勤が必要。終業17時が定時でも、記録や急変対応で18時を回ることは日常茶飯事です。
つまり、朝も夕方も30分から1時間ずつ足りない。この「毎日1時間の穴」を、家族の協力や有休や職場への謝罪で埋め続けるのが夏休みの実態です。私も、17時50分に学童へ電話して「あと15分だけ」とお願いする日々が続いた夏がありました。
原因2:お盆期間は全員が休みたい。だから希望が通らない
病棟は年中無休です。お盆に子どもと過ごしたいのは、あなただけでなく同僚全員も同じ。結果として希望休は分散させるしかなく、「せっかくの帰省が日勤に挟まれて日帰りになった」という話は毎年どこの病棟でも聞きます。
ここで大事なのは、これは誰かの意地悪ではなく資源の総量の問題だということです。相手を責める構図で考え始めると、職場の人間関係まで消耗してしまいます。
原因3:「かわいそう」という罪悪感が、冷静な判断を鈍らせる
これが一番やっかいです。「夏休みなのに、うちの子だけ毎日学童でかわいそう」「お母さんが夜いないなんて」。この感情が湧くと、人は極端な選択に傾きます。無理に有休を詰め込んで体調を崩す、あるいは急に退職を考え始める。
30年見てきて言えるのは、罪悪感は「あなたが子どもを大切に思っている証拠」ではあっても、「判断材料」にしてはいけないということです。罪悪感で決めた選択は、たいてい後から自分を苦しめます。
罪悪感は、感じてもいい。ただし、それをハンドルにしてはいけません。
3つの原因それぞれに効く、現実的な解決策
解決1:使える制度を「知って」から悩む
意外と知られていないのですが、2025年4月の育児・介護休業法の改正で「子の看護休暇」が「子の看護等休暇」に変わり、内容が大きく使いやすくなりました。主な変更点は次のとおりです。
- 対象となる子の範囲が、小学校就学前から小学校3年生修了までに拡大
- 取得できる理由に感染症による学級閉鎖・学年閉鎖、入園式・入学式・卒園式などの式典が追加
- 1日単位だけでなく1時間単位での取得が可能
- 「継続雇用6か月未満は除外できる」という労使協定の規定が廃止
学級閉鎖が理由になるということは、冬のインフルエンザ流行期にも効いてきます。そして1時間単位で取れるということは、原因1で挙げた「毎日1時間の穴」に対して、正面から使える制度があるということです。
ただし、有給か無給か、申請の締切、必要書類は職場ごとに違います。制度は、知っている人のところにだけ届きます。就業規則を一度だけ開いてください。5分で終わります。
解決2:勤務の組み方を「後から頼む」ではなく「先に交渉する」
師長に相談するとき、「お盆休みたいです」だけでは通りません。通りやすいのは、代案とセットで、早い時期に出す相談です。たとえばこう伝えます。
「8月13日から15日は義実家の帰省で終日難しいです。その代わり8月8日と20日は夜勤に入れます。他の方の希望と重なるようなら、13日と14日だけでも調整いただけませんか」
私が主任になってから実感したのは、調整する側がいちばん困るのは「希望が遅い」ことと「代案がない」ことだという事実です。理由と代案が添えられた早い相談は、驚くほど通ります。
解決3:外部リソースを「最後の手段」ではなく「最初の前提」にする
学童、ファミリーサポート、自治体の一時預かり、民間のシッター、祖父母、夫、そして子ども自身。夏休みを乗り切るには、これらを最初から計算に入れた設計が必要です。
「本当に困ったときのために取っておく」と考えると、たいてい申請が間に合いません。ファミリーサポートは事前登録と面談が必要な自治体が多く、思い立った日には使えないのです。
今日からできる7つの工夫
①夏休みカレンダーを1枚にまとめる。勤務表・学童の休所日・夫のシフト・習い事・帰省予定を、紙1枚かスマホのカレンダー1つに集約します。頭の中で管理している限り、不安は減りません。可視化した瞬間、「実は穴は3日だけだった」とわかることが本当に多いです。
②勤務希望は「理由つき・早め」に出す。解決2のとおりです。締切当日ではなく、締切の1週間前に出すだけで通過率が変わります。
③子の看護等休暇の社内規定を、一度だけ確認する。有給か無給か、時間単位で取れるか、申請は何日前か。この3点だけメモしておけば十分です。
④お盆は「まとめ休み」より「分散休み」を狙う。3連休が取れなくても、8月中に単発の休みを4日確保できれば、子どもとの時間の総量はむしろ増えます。子どもが覚えているのは連休の長さではなく、一緒に何をしたかです。
⑤夜勤明けの日は「無予定デー」と決める。夜勤明けに買い物と宿題の丸つけとプール送迎を詰め込むと、その週の後半が崩れます。明けの日は寝る。これは怠けではなく、翌日以降の安全を守るための業務です。
⑥子どもに「任せる家事」を1つ作る。小学生なら、洗濯物をたたむ、米を研ぐ、自分の朝食の食器を洗う。私は次男に「昼のそうめんを茹でる係」を任せました。最初は失敗もしましたが、夏休みの終わりには私より上手になっていて、それが本人の自信になりました。子どもは、守られる存在であると同時に、チームの一員になれる存在です。
⑦頼れる先を3つリストにしておく。名前と連絡先を書き出すだけです。「誰にも頼れない」と感じているときの多くは、実際に誰もいないのではなく、リストになっていないだけです。
「あるとラクになるもの」に、少しだけ投資する
気力でどうにかしようとするほど、夏は長く感じます。私が振り返って「もっと早く買えばよかった」と思うのは、毎日必ず使うものでした。
夏場の病棟は、汗と消毒と立ちっぱなしで、着るものの快適さがそのまま体力に直結します。通気性のよい素材の白衣やスクラブ、クッション性のあるナースシューズに替えるだけで、帰宅後に子どもに向ける余力が変わります。動きやすい一着を選ぶだけで気持ちが変わるので、消耗品として割り切ってしまうのも一つの考え方です。
もう一つは、夕食の負担を減らす仕組みです。夏休みは昼食も家庭の担当になるため、献立を考える回数が単純に増えます。週に2日だけでも宅配のミールキットや冷凍宅配を入れると、「今日の夕飯どうしよう」という思考コストが消えます。毎日使う必要はありません。いちばんしんどい曜日にだけ、外注するという使い方で十分です。
もちろん、何も買わなくても夏は越せます。ただ、「自分のために少しお金を使ってもいい」と自分に許可を出すこと自体が、罪悪感をゆるめる練習になります。こういう選択肢もある、という程度に受け取ってください。
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まとめ:完璧な夏休みを目指すのをやめた瞬間、夏休みは回り始める
夏休みと夜勤の両立は、根性でどうにかするものではありません。構造の問題には、構造で対処します。制度を知り、早めに交渉し、外部の手を最初から計算に入れ、そして自分の休息を予定表に書き込む。それだけで、8月の景色はかなり変わります。
そして、これだけは覚えておいてください。子どもが大人になったとき覚えているのは、毎日そばにいてくれたかどうかではなく、お母さんが自分の仕事を大切にしていた姿だったりします。私の子どもたちは今、「夜勤明けで寝てる母さんの横で漫画読んでた夏が好きだった」と言います。当時の私は、申し訳なさでいっぱいだったのに。
この夏、あなたが少しでも息をつける日がありますように。あなたのキャリアを応援します。

